フレージングで自由にギターの演奏を楽しもう
楽器の演奏で自分が思い描いた通りの表現ができていると自信を持って言える人は多くないと思います。
例えば録音して聴いてみた時になんとなく平坦でつまらない気がして「本当にこれでいいんだろうか」と悩むことはよくあります。
自分の感性を音に変え、頭の中の世界を表現をすることが音楽の醍醐味ですが、そのためには聴く人にもはっきりと伝わる、わかりやすい演奏する技術が必要となります。
ということで今回はフレージングという技術をつかって、実際の演奏を頭の中の音楽のイメージに近づけていく方法について書いていきたいと思います。
しかし練習中の皆さんはこんなことを考えているのではないでしょうか。
「まだ弾けてもいないのに表現なんて…」と。
そんな心配は必要ありません。
大切なのは技術と表現のバランスです。ちゃんと弾けるようになってから表現をつけようなんて思っていたらいつまでたっても音楽は完成しないばかりか、自分が楽しむこともできず練習が修行のようになってしまいます。技術は理想の表現をするためのツールでしかないということをぜひ覚えておいてください。
ここで紹介するのはその第一歩に過ぎませんが、少しでも表現の楽しみを感じて頂けたら幸いです。
思い通りのフレージングを実現する音楽的呼吸法
まずはこれを聴いてみてください。
・演奏1
・演奏2
この2つの演奏を比べると明らかに演奏1より演奏2の方が立体的で面白みのある演奏に聴こえると思います。前者は何も考えず弾き、後者はフレージングを意識した演奏です。最近では誰もが簡単に優れた音源にアクセスできるので、聴く人の耳はどんどん良くなっています。せめて演奏2ぐらいの表現ぐらいがないと不自然に感じてしまうでしょう。
しかしこういったある程度まとまりのある演奏をするのはさほど難しいことではありません。フレージングは手順さえわかれば誰でも身につけられる技術です。これが身につくと
- 演奏に自然な流れが生まれる
- 身体が脱力し技術が上がる
- 自信をもって適切な表現ができるようになる
など演奏の要とも言える技術がまとめて手に入ります。
さわの Guitar Lab.でギターを学ぶ生徒さんのほとんどの方が理解し、曲の中で実践できるようになっています。今まさに練習中の方もいらっしゃいますが、まもなく課題曲を修了し、今後これを活かしてどんどん深い表現ができるようになっていくと思います。
ぜひ皆さんも実践してみてください。
自然な表現を生み出すための3つのステップ
自然な音楽表現を身につけるためには3つのステップで行います。
誰でも理解でき、これまで多くの生徒さんに楽しいと言って頂いた手法です。一通りの基礎を学び、単音のメロディーや簡単なコードを覚えた方であればすぐに実践できるでしょう。
音楽の基本に沿っているのでここさえしっかり学べば、今後どんな曲にチャレンジする際も自信を持って自分なりの表現を楽しめるようになると思います。
フレーズの理解
フレーズとは意味を持つ最小の音符のまとまりのことをいい、文章で言えば「、」や「。」といった句読点で区切られた部分にあたります。
基本的に楽譜には明示されていないので自分で見つける必要があります。
どこからどこまでをフレーズとし、それぞれのフレーズをどのように演奏するか設定することをフレージングといい、演奏に自然な表現を与えるために欠かせない作業です。
例えば
「ぼくはきのうはんばーぐをたべました。」
「僕は、昨日、ハンバーグを食べました。」
この2つの文章を比べると断然下の方が読みやすいかと思います。
音楽で考えた場合、この句読点でわけたことがフレージング、そして漢字やカタカナに変換したことが表現ということになります。表現の部分は後ほど触れますがまずはこれに倣って以下の曲のフレージングを設定してみましょう。
これはアントニオ・カーノという1811年生まれのギタリストが書いた練習曲の前半部分です。上に置いた2つの音源の楽譜でもあります。これをフレーズごとに分解するとこうなります。
8小節の楽節が2・2・4の3フレーズに分けられました。
フレーズは自分がどう弾きたいかで設定するものなのでどうしてこのように分けたのかと聞かれるとこれが一番しっくりきたからという他ありません。しかし、だからといって何でもいいわけではなくある程度正解があります。
その一番簡単な確認方法は一度声に出して歌ってみることです。
音楽には正解がないという意見ももっともですが、あまり独特すぎても聴く人は疲れてしまいます。聴く人に楽しんでもらうという観点で言えば、自分の個性より誰が聴いても自然に聴こえるフレージングを目指すのが優先です。
そのためには自分が一度感じるがままに声に出し、その歌い方に一番近いものでまとめるとほとんどはずれることはないと思います。人の感性はそこまで大きく違うわけではないので、自分が気持ちよく歌えるということは他の人も大抵は気持ちよく聴けると考えて良いでしょう。
フレージング=音楽を誰もが聴きやすく、意味のあるまとまりで区切ること
適切なタイミングでの呼吸
フレーズを設定し、どのように演奏したいのかイメージが固まったら今度はそれを具体的に実現する技術を身につけなくてはいけません。
そのために最も有効な手段は呼吸を使うことです。
もちろんここで言っているのは呼吸を音楽の表現に適した形でつかうことであり、ただ吸って吐けば良いというものではありません。
ではどのようにするのか。そのヒントは先程自分で設定したフレーズにあります。
フレーズ入り口の1拍前で吸う
フレーズとは文章でいう句読点のことですから、その始まりのから終わりまで一息で読んでしまうことが大切です。フレーズ中に間をおいてしまうと流れが崩れ意味が変わってしまったりします。
そのためにはフレーズの1拍手前で呼吸しましょう。今回は2/4でテンポがゆっくりなので8分音符換算で2拍目の裏で息を吸うようにします。
頭の中で「1・と・2・と」と数えて、2拍裏の音を弾きながら鼻で息を吸います。吸うときは必ず鼻呼吸というのを覚えておきましょう。口呼吸だと
- お腹により胸に空気が入ってしまい重心が上がる
- 肩や腕に力が入りやすくなってしまう
- 息の量をコントロールしにくい
など良いことがありません。お腹にしっかり空気が入るように意識しましょう。また、1フレーズ目の手前、つまり予備拍の4つ目も呼吸するのを忘れないように気をつけてください。
フレーズの手前で呼吸をすると1拍目、すなわち強拍の重みをしっかり捉えることができます。
強拍と弱拍
音楽にはそれぞれ決まった拍子がありますが、その中の拍には強拍と弱拍という2種類が存在し、単に均一な感覚で捉えてしまってはいけません。
例えば4/4拍子であれば
となります。
強弱と書くと音量やアクセントの有無で考えてしまいがちですが、強拍はその小節の中で最も重みを感じ、弱拍は逆に軽快なものとするのが近いと思います。大抵1拍目に強拍がくるのがほとんどで、そこにしっかり寄りかかれるとより説得力がある演奏になります。
吸う前に吐ききる
フレーズの手前で呼吸できるようになったら次に意識するのは更にその手前で吐ききることです。当たり前のことですが息は吐かなければ吸えません。そのため逆算して吸う手前で息を吐ききれるようにコントロールしましょう。
では吸ってから次のフレーズ手前で吐くまでの間はどうしたらいいのか。選択肢は2つあります。
- 吸った息を2拍目表までかけてゆっくり吐き続ける
- 特に意識せず2拍目表で吐ききることだけを考える
僕の結論は2の手前で吐くことだけ意識することです。その理由としては、吐き続けることを意識するのは結構大変で他に気が回らなくなるからです。実際試すとわかりますが、演奏中は指の動きなど他に気をつけることが多々あるのでせいぜい吸う前に吐くとだけ覚えておくだけで精一杯だと思います。
呼吸に表現をつける
音楽に合わせて呼吸ができるようになったら今度はそれにアーティキュレーション、すなわち表情をつけていきます。これまで省いていましたが、この楽譜に強弱記号をつけたものがこちらになります。
- 曲の始まりはピアノで(起)
- フレーズ②はフレーズ①よりちょっと強く(承)
- フレーズ③で盛り上げていき7小節目頭が頂点(転)
- デクレッシェンドして落ち着けて終わる(結)
細かくみるとこんな形になります。この曲を題材に取り上げたのは上記のように起承転結がはっきりしていてわかりやすいからです。
そして今度はこれに合わせて呼吸の量を変えてみましょう。弱く弾くところは小さく、強く弾くときは大きく吸うことで指先の力の量を変えるのではなく、自然と全身を使って楽器が響かせられるようになります。
たっぷり息を吸った次の1拍目は息を吐きながらリラックスして弾きます。するとその後のフレーズに自然と流れが生まれてくると思います。あとはそれを最後まで繰り返すだけです。
以上が音楽的に呼吸を使ったフレージング法になります。
まとめ
いかがでしょうか。なんとなく頭の中でイメージさえ膨らませば演奏に表れると思ってしまうと表現のトレーニングが疎かになります。
誰もが心の中に素晴らしい音楽を持っているはずですが、そのままにしてしまっては宝の持ち腐れです。ぜひ聴く人にもしっかり伝わるようフレージングの技術を身につけてください。
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