「どうしたら生徒さんに上達してもらえるか」というのは音楽講師にとって永遠のテーマです。
いつも通りそんな答えのない課題に対してどうしたもんかと頭を悩ませていたのですが、考えてるうちに気が滅入ってきたので元気でももらおうとネットで偉人の名言集を見てました。
するとそこにはこんな一言が。
これじゃん。
完全に天啓が降りてきました。僕の中でまとまりかけていた理論を見事に簡潔な一文で言い表していたのです。
「おいおいイチロー、アウトプットまで一流かよ」と感服しつつ、ちょっと悔しいのでこれを僕なりの言葉で言い換えてみることに。
そうしてできたのがこちらです。
「スキルの上達は言語化がうまい人ほど早い。」
間違いないです。だってイチローの名言を言い換えただけですからね。
とはいえ僕自身も今までレッスンを通じて技術というものと向き合ってきたからこそ彼の言葉に共感できたわけです。
なぜそう思ったのか、今回は自らここでその理由を言語化してみようと思います。
もし以下を読んで納得できたら誰か名言集に載せといてください。きっとこいつ誰だよっていわれると思います。
言語化するってどういうこと?レッスン中の会話例
ではまず言語化するとはどういうことかを見ていきましょう。レッスン中のよくある会話がこちら。(フィクションです)
事例①:だめなパターン
いかがでしょう。ダメな人のわかりやすいパターンですね。
- うまくいっていないことはわかる
- どううまくいっていないのかは説明できない
- 具体的な問題点がわかっていないから改善策もわからない
という状態。
文章で見るとこんなふわふわしてる人いる??って思うかもしれませんが、実際こういう会話めちゃくちゃ多いですからね。
レッスンが難しいといわれるのはまさにこれが理由で、言葉こそ悩みの原因を見つける最も重要な手がかりなのに、本人がそこにうまく落とし込めていません。講師はその限られた言葉、もしくは見た目から判断するしかなく、最適解を提案するのは非常に困難となります。
本当は誰だって「今自分がなにができてなくて、そのためにどうすべきか」を1つずつ辿ってさえいけば暫定的でも答えは出せるはずなんです。
この例では僕が質問しまくってなんとか誘導していますが、1人でできないことには時間の無駄が多すぎるのでなんとかしたいところ。
事例②:良いパターン
一方で稀にとんでもないスピードで上達していく人もいます。そんな方との理想的な会話がこちら。
はい、超スマート。
- 自分で問題を分析
- 具体的な改善策を実行
- その一連のやり方が正しかったか講師と答え合わせ
- 新たなアドバイスをもらう
という理想的な学び方のサイクルが作れています。ビジネスで言うとPDCAがきちんと回っている状態ですね。
言語化=思考の整理。自分のために活用しよう。
この2つの例からわかるのは言語化にはすべきことを明確にする効果があるということです。
それなら自分の生徒さんにもどんどん使ってほしい。そんな話を知り合いに話したところ、反論を喰らうことがままありました。
はい、でた。こういうやつ。
歩み寄ってやれよってことがいいたいんでしょうけど、そもそも僕は今そんな話はしてません。なぜなら言語化は相手がいるいないに関わらず自分の脳内で行うべきだからです。
Q.どうすべきか
A.頑張る
みたいな状態じゃ上達しないから、頭を整理してまずはきちんと結論を出すべきだよねってことを言ってるのに、論点ずらして「相手の話を理解しようとしない冷たいやつ」みたいに扱かってきたのでスルーきめときました。
それでいて言語化できてる会話の方がお互いにとって伝わりやすいのも明らか。自分のための状況整理でありながら、話す内容もわかりやすくなるんだから絶対やりましょう。
ただ「自分は直感派だから細かく考えるのが苦手!」という方もいるかと思います。
本当なら性格なんかを言い訳にすんなっていいたいところですが、そろそろ厳しいと言われそうなので代わりに僕が普段から意識している3つのポイントを紹介します。
言語化トレーニング①:指示語に頼りすぎない
指示語とは「あれ・これ・それ・どれ」といった共通の認識を前提にして機能する代名詞のことです。
言葉数を減らすことができて便利ですが、別の視点で考えればあなたが伝えることを放棄し、「あれとはなにかを想像する」という作業を相手に丸投げしているだけとも言えます。
- ×:「この前話したあの件だけどさ」→時間、内容
- △:「一昨日話したあの件だけどさ」→内容
- △:「この間話した車の買取の件だけどさ」→時間
- ◎:「一昨日話した車の買取の件だけどさ」→なし
このように情報をきちんと伝えるだけで段違いにわかりやすくなります。
ちなみに僕が言われたら「あの件ってなんのことだっけ?」とあほなふりして聞き返します。めんどくさいと思われるより行き違って揉めたらもっと嫌だからです。
話し手が企画書でも作るときのように5W1Hを意識するだけなのでその程度の労力をサボっちゃいけません。
言語化トレーニング②:単語を正しく理解する
単語の意味を正しく理解していない人も多いです。
例えば音程という言葉。正しくは「2つの音の距離」のことを指すのですが、生徒さんに聞いても半数ぐらいが「音の高さのことですよね!」って答えてくれます。
歌のレッスンなんかでは、相対音感といって「今自分がいる位置から何センチ上にジャンプすればなんの音」というように距離感を掴むトレーニングをしていくのですが、この時音程を音の高さと勘違いしてしまっていると、なにもない空間からそれぞれの音の高さを捉える、いわゆる絶対音感を身につける練習なんだなと目的を履き違えてしまうことに繋がりかねません。
他にもテンポとリズムとビートの音楽的な違いを理解できていなかったり、4/4拍子の分母と分子の意味をわからないまま使っているのもお決まりのパターン。
とこんな感じになります。
ちなみに「知ってます」と言われた段階でならいいやと流すのはダメな講師だと思います。相手の理解度を正しく把握するのは指導の基本ですからね。
言語化トレーニング③:知らない単語を検索する
最後におすすめしたいのが知らない単語は見つけ次第全て検索するということ。スマホがあれば1分でできます。
例えば「うだつが上がらない」という言葉は誰しもが耳にしたことがあるかと思いますが、「うだつ」が何なのか知らない人がほとんどです。
これはかつて立派な家の屋根についていた装飾のことで、
自分の家にうだつがつけられない
→出世ができず、経済的に恵まれない
→生活や物事がよくならない
ということを意味しています。
そんなの知ってるからなんだって話なんですけど、これを聞いて「うだつってなに?」と気に留めるアンテナもっているかはまた別。
「なんとなく知っている」という状態を放置しないことが思考停止を防ぐ第一歩となります。
曖昧さはコミュニケーションもだめにする
なぜ今回長々とこんな主張をしているのかというと、この手の曖昧さを持っている人が日常のコミュニケーションにも悪影響を与えているな~と感じているからです。
例えば僕も
とか言われることが半年に1回ぐらいのペースであるんですが、全然納得感がないんですよね。
- 音楽の仕事→楽しんでできる仕事
- フリーランス→自由でストレスがない
- 不動産業→ストレスが多い
- サラリーマン→理不尽で大変な思いをして働いている
この人がこんなイメージをもってることは簡単に推測できます。とはいえ仮に統計上でもそうだとして、なぜそれを勝手に個人に当てはめてくれてるんでしょうか。
僕が今の立場をありがたいと思っているのは確かですが、とはいえもうちょっと相手のことを知ってから言ってほしいもんです。
そんなやつには
中指突き立てています。内心で。
ということでいつまでも漠然と考えて思い込みに囚われてる人はコミュ力もスキルも身につきませんよって話でした。
最後に:せめてイチローのように
スポーツや楽器の技術というのは結局のところ物理の法則に基づくので、原因と結果を正しく結びつけて考えることができなければ練習効率は上がりません。
その一つの手順となるのが言語化という作業であり、これができない人はいつか成長していない自分に気づいてやめていってしまう。講師としては一番悲しい結末です。
しかしイチローの言葉を目にした瞬間、あの才能をもってしても人に説明できるほど具体的な練習を積み重ねていたという事実は最高の教材になるなと思いました。
せめて僕らも同じところから始めましょう。
自戒の念を込めつつ、これを一人でも多くの人に伝えていきたいと思います。
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